折り紙の電球
デザイン・制作:ハマナカ トモアキ
2021年
素材:トレーシングペーパー
サイズ:7.5cm × 10cm × 7.5cm
日本文化における「光」
日本の伝統的な照明である提灯(ちょうちん)は、紙で包まれた灯りが、周囲にやわらかく光を広げるという、極めてシンプルで美しい構造を持っています。かつては蝋燭の炎が使われ、現在では電球に置き換わりましたが、紙を通して放たれる光の温もりには、どこか懐かしさと安心感があります。
谷崎潤一郎は『陰翳礼讃』の中で、漆器に落ちる淡い光や、薄暗い和室に漂う陰影の美しさを称賛しました。すべてを明るく照らし出す西洋的な照明とは異なり、彼が見出したのは、見えない部分を含んだ空間に宿る美でした。そこには、想像や思索を促す余白があり、目に映るもの以上の世界を感じ取る契機が生まれます。
現代は、デジタル技術によって世界のあらゆる情報に容易にアクセスできる時代です。その中で、このような「余白」や「曖昧さ」を保つことは、難しくなっているようにも思えます。しかし、日常のささやかな違いや微細な変化に目を向けることで、世界は再び奥行きを取り戻します。
私たちはそれぞれ、自分自身のフィルターを通して世界を見ています。必要な情報を取捨選択することは効率的ですが、その一方で、美しさの細やかなニュアンスを見落としてしまうこともあります。だからこそ、ときどき感覚を調律し直すことが大切なのだと感じています。
感性を整える方法は、人それぞれです。アートに触れること、哲学を学ぶこと、あるいは装いを変えることもひとつの方法でしょう。私にとっては、作品を制作することそのものが、最も確かな「調律」の手段です。発想し、試し、観察し、価値を見極める──その一つひとつのプロセスを通して、自分が何に美しさを感じるのかが少しずつ明確になっていきます。
そうして世界を見つめ直すたび、これまで気づかなかった場所に、新たな美の可能性が立ち現れてくるのです。
作品について
《折り紙の電球》は、折り紙という手法を用いながら、単なる「形」を超えた表現に挑戦した、私の初期の作品のひとつです。一見すると、ただの球体のように見えるかもしれません。しかし、背後から光を当てることで、内部にフィラメントのような構造が浮かび上がり、まるで本物の電球のような姿を現します。
紙という素材、光、そして見る角度によって変化する印象。その関係性そのものを、一つのかたちとして結晶化させた作品です。


この《折り紙の電球》を制作する以前、私は折り紙とは「対象の形を紙でなぞる行為」、いわばデッサンのようなものだと考えていました。しかしこの作品を通して、紙という素材そのものに向き合うことで、紙でしか生み出せない表現があることに気づき、折り紙の可能性が大きく広がりました。
ガラスで電球を作ることと、紙で電球を作ることの違いは、単なる素材の差ではありません。そこには、表現できる内容そのものの違いがあります。ガラスはほぼ完全に透明ですが、紙は不透明な素材です。ただし、十分に薄い紙であれば光を通し、その向こう側の存在を感じさせることができます。
私はこの性質に着目し、「暗闇の中で光が灯ったときにはじめて、その正体を現す」という本物の電球が持つ本質を、紙という素材で表現しようと試みました。光と紙が交わることで立ち現れる構造そのものを、折り紙として形にした作品です。

